当サイトでは、2005年4月25日にJR西日本の福知山線・塚口駅〜尼崎駅間で発生した脱線事故のことを尼崎事故と呼称します。
ＪＲ西日本のＡＴＳの問題点 †
ＪＲ西日本の速度照査は万全か? †
信号速照
- 最高速度で追突する危険性が残る
福知山線を含め、速度照査を実施していない多くの信号機があります。このため、JR西日本の大半の路線に於いて最高速度で先行列車に追突する危険性が現在も放置されています。この問題については、次節の福知山線は安全になったか? を御参照下さい。
曲線速照
- 線区によっては現在も速度超過を防げない
尼崎事故後にJR西日本は曲線への速度照査設備設置を進め、2006(平成18)年3月28日までに整備を完了しました。しかしながら、振子式特急列車が運行するATS-SW形設置路線では、速度超過を完全に防止することは不可能です。
- 曲線を高速で通過する振子式車輌
振子式車輌は曲線を高速で通過するために開発された車輌で、特急列車として運用されています。JR西日本には特急列車しか走らない路線は無いため(JR北海道には一部区間にある様です)、振子式車輌の特急列車と振子式車輌ではない一般車輌が同じ路線を走行することになります。両者では曲線通過性能(通過可能速度)が異なります。
- ATS-SW形設置路線では振子式車輌と一般車輌の照査速度は同じ
ATS-P形では車種や列車種別に応じて照査速度を振分けることが出来ますが、ATS-SW形ではその機能がありません。ではどうしているのか?
照査速度を一般車輌に合わせると安全ですが、それでは振子式車輌を高速で走行させることが出来ず、高価な振子式車輌を投入した意味がありません。そこでJR西日本では照査速度を振子式車輌に合わせて設備を設置しています。例えば一般車輌が70km/h、振子式車輌が90km/hの速度制限がある曲線の場合、速度照査設備は90km/h以上で動作するよう設置されています。つまり、一般車輌が20km/hの速度超過を起こしても速度照査設備は動作しません。
- 40km/h前後の速度超過を起こす危険性が残る紀勢本線
紀勢本線で特急オーシャンアローとして運用されている283系特急型電車では、本則+35km/h(本来の曲線制限速度を35km/h上回る速度)で曲線を通過出来る性能を有するとされており、速度照査設備が若干の余裕を見込んで設置されていることを考慮すれば、阪和線の日根野以南と紀勢本線で運用されている一般車輌は40km/h前後の速度超過を起こす恐れがあります。これがどの程度安全性に影響が及ぶのか、気になるところです。
- 他にもある振子式車輌運用路線
紀勢本線／阪和線の他にも、伯備線・山陰本線・因美線などのATS-SW形設置路線で振子式車輌が運用されています(山陽本線内では振子機構をロックしている模様、智頭急行はATS-P形設置)。
旧型の381系振子式特急型電車でも本則+25km/h(本来の曲線制限速度を25km/h上回る速度)で曲線を通過出来る性能があり、伯備線では一般車輌が30km/h前後の速度超過を起こす恐れがあります。新型のキハ187系振子式特急型気動車や智頭急行HOT7000系振子式特急型気動車では更に曲線通過性能が高いと思われ、これらが運用されている山陰本線や因美線では一般車輌が40km/h前後の速度超過を起こす恐れがあります。
またこれはJR西日本だけでなく、改良型ATS(ATS-Sx型)線区で振子式車輌を運用するJR各社に共通する問題です。
- 振子式車輌運用線区での速度超過を防ぐ方法
現実的な対応策は以下の3通りです。
- 速度照査設備を一般車輌に合わせて設置し、振子式特急を高速で走らせることを諦める。
- ATS-SW形を改良し、一般車輌と振子式車輌の照査速度振分け機能を導入する(高減速車に対する速度照査地点振分け機能やATS-ST形の列車番号送出機能などを応用する)。ただし、速度照査地点ごとに列車からの情報受信用地上子、及び受信情報をもとに速照用ATS地上子を制御するための装置(リレー回路)が必要となり、地上時素方式に準じる高価な費用が掛かると推測される。
- ATS-P形を導入し、一般車輌と振子式車輌の照査速度振分けを実現する。導入に大変費用が掛かるが、曲線での速度超過防止が実現すると同時に、正面／側面衝突事故の防止も可能となる(拠点P型の場合)。全線P型を導入すれば、さらに高速での追突事故も防止可能となる。
- やってはいけない対応策
振子式車輌の車上時素(タイマー)を短縮することにより、一般車輌と振子式車輌の照査速度振分けを行なうことが出来ます。極めて簡単に実現可能な対応策ですが、これでは曲線とともに分岐器でも振子式車輌が高速で通過してしまい、今度は振子式車輌が速度超過を起こします。
基本的に分岐器では振子式車輌・一般車輌ともに制限速度は同じであり、分岐器で振子式車輌に高速通過を許すことは危険です。JR九州では振子式車輌の時素を短縮して照査速度を一般車輌より高くしている例がある様ですが、時素短縮は1割程度に抑えており(標準0.50秒のところ0.45秒)、これでは新型振子式車輌の高性能を殆んど活用出来ません。時素1割短縮で本則+35km/hの性能を活用するには、350km/hの速度制限のある曲線で385km/hで走行する必要があります。
JR西日本は既に一部の地方線区で一般車輌の車上時素を短縮することを決定しており(2006年08月23日／JR西日本、運転士不慣れによる緊急停止防止のため時素短縮？を参照)、同社の今後の対応には注意が必要です。
なお、裏技として振子式車輌の時素を3〜4割程度短縮して0.35〜0.30秒とし、分岐器速照用の地上子を振子式車輌が速度通過しないように設置する方法が考えられます。しかしこの方法では、一般車輌はかなりの低速で駅構内を走行することを強いられますし、回送運用を含め振子式車輌が走行する全ての線区で地上子を設置し直さなければならず、実現は事実上不可能と言って良いでしょう。
分岐器速照
- 曲線より重要な分岐器での速度照査
分岐器では速度超過による事故が起き易く、また大事故に繋がり易いため速度照査が必要ですが完備してはいません。本来は曲線速照より重要なのですが、尼崎事故により世間の関心が集まった曲線速照の整備が優先されています(JR九州は曲線よりも分岐器への設置を優先している模様)。
JR西日本は平成18年度末(2007／平成19年3月31日)までに分岐器速照設備の整備を完了するとしています。
- 1点速照で大丈夫か?
ATS-SW形設置路線の分岐器で直進側と分岐側での速度差が大きい場合(直進側130km/h・分岐側55km/hの場合等)、1点速照(1箇所のみで速照を実施)では危険な場合があります。一方で設置コストを押さえるために1点速照を多用する傾向があり、JR九州が尼崎事故以前に分岐器へ設置していた154箇所は全て1点速照でした。
世間の関心は薄いのですが、必要に応じて2点速照以上の分岐器速照設備が適正に整備されるのかどうか、見ていく必要がありそうです。
- 追突の危険性が放置されている 〜閉塞信号機に対する無防備〜
尼崎事故ののち、福知山線の尼崎〜新三田間にはATS-P形が整備されました。しかしこのATS-P形、実は拠点P型というコストを抑えた方法で設置されており、一部にしか設置されていません。それ以外の部分は旧型ATSとされるATS-SW形に現在も頼っており、このATS-SW形では閉塞信号機に対する速度照査を実施していません。ATS-SW形では前方の信号機が停止現示(赤信号)の場合、ロング地上子通過時に警報ベルが鳴りますが、この際に運転士が確認ボタンを押すと列車は無防備となります。
具体的に何が危険かと言うと、運転士がぼんやりと確認ボタンを1回押すだけで、最高速度(最高運転速度速照を実施していれば路線最高速度、していなければ130km/h以上)で先行列車に追突する危険性が現在も放置されています。
勿論、運転士が信号を守れば事故は起きません。しかし、尼崎事故の事故列車の運転士は正常に運転出来ない精神状態ではなかったのではないかと報道されており、これが仮に事実であれば、同様のケースが再び起きた場合に対して、現在の福知山線の運転保安システムでは高速での追突事故を防止できるようにはなっていないのが現状です。つまり、ATSのシステム上、尼崎事故と同等か或いはそれ以上の列車衝突事故(追突)を起こす危険性が現在も福知山線に残っていることになります。
大手私鉄では私鉄通達(昭和42年鉄運第11号／昭和62年廃止)によって高速での追突の危険性は排除されていますが、JR西日本を含むJR各社では、大半の路線でこの危険性が放置されています。
- 高速での追突防止対策が完了しているJR西日本の路線
以下の路線以外では全て、システム上の問題で高速での追突事故の危険性があります。また全線P型のATS-P形路線でも、ATS-SW形やATS-SF形しか搭載していない列車が入線する際には高速での追突事故の危険性があります。
| 運転保安装置 | 設置路線 | 設置区間 |
| | |
| ATC-1形 | 山陽新幹線 | 全区間 |
| | |
| ATS-P形(全線P型) | 大阪環状線 | 全区間 |
| 桜島線 | 全区間 |
| JR東西線 | 全区間(尼崎〜京橋) |
| 阪和線・関西空港線 | 天王寺〜関西空港 |
| 関西本線 | JR難波〜王寺 |
このページは、ATS-Wi 内のコンテンツです。利用規約についてはこちらをご覧下さい。
アクセス／昨日1：今日2：総計11156
以下 準備中
（準備中）事故調査の問題点 †
このページは、ATS-Wi 内のコンテンツです。利用規約についてはこちらをご覧下さい。
アクセス／昨日1：今日2：総計11156
![[PukiWiki]](image/pukiwiki.png "[PukiWiki]")
