ATS-Pと称するものには様々な意味があり、大変混乱しやすくなっています。一般的な定義については当ページの「ATS-Pの定義」を、当サイトに於ける呼称についてはATS-P/名称をご参照ねがいます。


ATS-Pの概要
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ATS-PはATS(自動列車停止装置)の一種である。列車が赤信号を冒進したり速度制限区間で制限速度を超過したりすることを防ぐために、旧国鉄により開発された。運転士が誤操作した場合でも確実にこれらを防止することを目指した運転保安装置である。そのシステムや実績から高い安全性を有すると評価されているが、設置に高額な費用が掛かることから普及度は低く、また近年は次々と機能を省略されたものが設置されている。最近ではフルスペック版ATS-Pでも赤信号を冒進する危険性があることが指摘されている。

ATS-Pの定義

ATS-Pとのみ記す場合、一般的には次の1から4の意味で用いられる。当ページでは特記なき場合、フルスペック版ATS-Pを指す。当サイトに於ける呼称はATS-P/名称を参照のこと。

  1. P型ATSグループ全体を指す場合。
    パターン制御を行なうATS、およびP型を名乗るATS全体を指す。
    現用中の全てのP型ATSと、関西本線型ATS-PおよびH形ATSを指す。
     
  2. P型ATSグループのうち、現用中のものを指す場合。
    パターン制御を行なうATS、およびP型を名乗るATSのうち現用中の全てのものを指す。
    関西本線型ATS-PおよびH形ATSは含まない。
     
  3. P型ATSグループのうち、名称が「ATS-P形」であるものを特定して指す場合。
    JR東日本のATS-P形(全線P方式)、およびJR西日本のATS-P形(全線P方式と拠点P方式の双方を含む)を指す。H形ATSを含む場合がある。ATS-PN形およびATS-Ps形は含まない。
     
  4. P型ATSグループのうち、全線P型ATSを特定して指す場合。
    JR東日本のATS-P形、およびJR西日本のATS-P形(全線P方式)、およびATS-PN形を指す。H形ATS、およびJR西日本の拠点P方式のATS-P形(JR西日本式拠点P型)、およびATS-Ps形(JR東日本式拠点P型)は含まない。

ATS-Pの分類

ここではP型ATSグループを名称別に分類する。

  • 関西本線型ATS-P(正式名称不明)
    パターン参照型ATSとしては最初に開発された変周型ATSである。1974年から関西本線で長期に亘り試験運用が行なわれたが、トランスポンダ式が正式採用されたため全廃された。
  • H形ATS
    トランスポンダ式としては最初に実用化されたP型ATS、JR化後に撤去された模様である。
  • ATS-P形
    設置方法の違いにより全線P型と拠点P型がある。JR東日本が全線P型を、JR西日本が全線P型・拠点P型の両方式を導入している。(なお、ここでいうATS-P形とは上記「ATS-Pの定義」の「3」が指すもののうち、ATS-H形を除いたものである。)
  • ATS-Ps形
    JR東日本のみ導入している。JR東日本の改良形ATS (ATS-Sx型)であるATS-Sn形との互換性に配慮したシステムで、拠点P方式として設置されている。今後は主要停車場のみに設置する方向で整備されるものと思われる。設置方法やその他の実情から、P形ATSグループの中では最も保安度が低いと見られる。

ATS-Pの特徴・機能

ここではフルスペック版ATS-Pの機能について記述する。

  • 赤信号外方での列車停止機能
    ATS-Pの最大の機能的特徴は、列車を赤信号外方(手前)で停止させることである。
    ATS-P以前のATS-S形では赤信号手前で運転士に警報を出し、運転士が警報を無視した際に緊急ブレーキを作動させていたが、運転士が確認ボタンを押した後は強制的にブレーキが作動しないという危険極まりないものであった。また現在普及している改良形ATS (ATS-Sx型)では、確認ボタンを押した後でも赤信号を冒進した際に強制的にブレーキを作動させるよう改良されたが、この場合でも車輌が停止するのは赤信号内方であり、高速であれば最大で600m過走し先行列車に追突する可能性がある。これに対しATS-Pでは、赤信号外方(手前)で列車を強制的に停止させることが出来る。
    ATS-Pは絶対信号機許容信号機の双方に対して、赤信号外方(手前)で列車を停止させる機能がある。
  • 常時速度照査
    ATS-Pは赤信号冒進を防止するために、列車が赤信号外方(手前)で停止可能な速度であるか否かを監視する。また、一部の曲線や線路終端部等に於いて許容された速度内であるか否かを監視する。また、列車の速度が路線に許容された最高速度を超過しているか否かを常に監視する。これらの機能を速度照査と言う。点速照のATS-ST型による速度照査と異なり、ATS-Pではパターンを作成して連続的に速度照査を行なう。
  • パターンによる制御
    ATS-Pの車上装置は赤信号に近接すると、列車がその地点までに停止する為の上限速度を時系列的に算出する。これをグラフに表した曲線をパターンと呼ぶ。ATS-Pは、列車がこのパターンを外れそうな際(パターンが許容した上限速度を超過しそうな際)に強制的にブレーキを動作させ、赤信号冒進を防止する。曲線等の速度制限区間が近接する際も同様に、速度制限区間の開始点までに定められた速度まで減速する為のパターンを算出(発生)させ、列車が制限速度を超過することを防止する。
    パターンを参照することがATS-P最大の技術的特徴であり、ATS-PのPはパターンPatternに由来する。
  • 常用ブレーキでの制動
    他のATSは全て緊急ブレーキを強制的に動作させて列車を停止させるが、ATS-Pは常用ブレーキを強制的に動作させて列車を減速させることが出来る。この際、十分な速度まで減速するとブレーキは緩められる。つまり、強制的にブレーキが作動しても必ずしも列車が停止するとは限らず、ダイヤ遅延を防止する上で有用なシステムであり、また運転士のストレスも少なくて済む。
    なお、貨物列車などはパターンが許容する速度以下まで十分に減速してもブレーキは緩められず、強制停止させられる。
  • 現示アップ機能
    ATS-Pでは車上側から地上側にデータを送信するためのトランスポンダが搭載されており、制動性能の良い列車では信号現示を上げて、本来の信号現示より高速で走行することが出来る。

ATS-Pの速度照査機能

ATS-Pによる速度照査機能を大別すると、絶対信号機に対するもの、許容信号機に対するもの、分岐器に対するもの、曲線に対するもの、線路終端部に対するもの、最高速度に対するものに分けられる。全線P方式のATS-P形はこれら全ての機能を備えるが、その他では一部の機能が省略されている。信号機への速度照査機能が省略された場合、当然ながら停止現示外方(赤信号手前)で列車を停止させることは出来ない。速度照査の仕組については速度照査の方式・パターン方式を、形式別の機能については各形式の解説およびATS-P/速度照査の現状を参照のこと。

  • 絶対信号機に対する速度照査
    出発信号機や場内信号機などの絶対信号機の赤信号に対してパターンを発生させ速度照査を行なう。これらの信号に対しては列車が低速で接近することも多いが、低速であっても絶対信号機の冒進は正面衝突や側面衝突事故に繋がりやすく冒進阻止は重要であり、ATS-Pの各タイプに於いても最低限この機能が備えられている。ただし、JR東日本は今後、途中駅の絶対信号機に対する速度照査機能を省略してATS-Ps形を整備する予定である。
  • 許容信号機に対する速度照査
    許容信号機である閉塞信号機の赤信号に対してパターンを発生させ速度照査を行ない、追突事故を防止する。重要な機能ではあるが、拠点P型ではほぼ完全に省略されている機能である。
  • 分岐器に対する速度照査
    分岐器の速度制限に対して速度照査を行なうことが出来る。分岐器に絡む鉄道事故は多く、トランスポンダ式ATS-P開発の契機とされる西明石駅ブルートレイン脱線事故も分岐器の制限速度超過が一因であった。古くからATS-S形により分岐器速照が行なわれており、またATS-Sx型でも数多くの分岐器速照が行なわれていることから、ATS-Pでも多くの地点で分岐器速照が行なわれていると考えられる。分岐器速照に於いては分岐方向により制限速度が異なることから、地上側の機器により分岐器速照用のATS-P地上子を制御しているものと思われる。
  • 曲線に対する速度照査
    曲線などの速度制限のある任意地点に地上子を設置することにより速度照査を行なうことが出来るが、全体としてはごく一部の曲線にしか設置されていない。全線P型ではATS-Pの無電源地上子によりパターンを発生させるとされるが、全ての曲線速照地点に於いてパターンを発生させているか否かは不明である。JR西日本の拠点P型設置路線では必ずATS-SW形が併設されており、速度照査を行なう曲線ではATS-SWの速度照査用地上子が設置されているが、ATS-P搭載車がATS-PとATS-SWのどちらの地上子で曲線速照を行なっているかは不明である。ATS-Ps形では曲線速照は行なわれていない。
  • 線路終端部に対する速度照査
    従来はあまり重視されていなかったが、宿毛事故(ATS-SS形)により再びその重要性が認識された。ATS-Pでは基本的にこの機能を有しているが(常に停止現示とする信号機を線路終端部に置けば良くパターン消去用地上子も不要)、全ての駅で設置されているかは不明である。また、JR東日本が地方路線への整備を進めているATS-Ps形は、支線系の線路終端部での過走防止対策を特に重視して整備されると思われ、すでにATS-P形が設置されている駅も含め23駅への設置が予定されている(ATS-Ps形以外を含め26駅に設置予定、うち2駅は国土交通省の指摘を受けたものであるが、それがどの駅かは非公開)。しかし、途中駅の絶対信号機に対する速度照査機能すら省略するのであれば、ATS-Ps形は線路終端部の過走防止にしか役に立たない訳であり、当該機能をATS-P形が備えていることを考えれば、JR東日本の施策は保安設備への投資の怠慢と揶揄されても仕方ないだろう。
  • 最高運転速度に対する速度照査
    列車が走行中の区間の最高運転速度を超過せぬようにするための機能である。鉄道保安設備の多くは列車が最高運転速度を超過しないことを前提に設置されているため、これを超過すると事故を招く要因となり得る。しかし従来のATSでは、制限区間の速度照査については一部ながら実施されていたが、最高運転速度に対する速度照査は考慮されていなかった。
    尼崎事故の後、国土交通省は各鉄道事業者に曲線速照が必要な地点を通達したが、これも列車が最高運転速度を超過せぬという前提に基いたものであった。尼崎事故では列車が路線に許容された最高運転速度を超過していたことが確実視されており、その意味ではこの機能は重要であるが、現在どれだけの路線で運用されているのかは不明である。
 

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Last-modified: 2006-09-02 (土) (6436d)