ATS-S形の概要
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ATS-S形はATS(自動列車停止装置)の一種である。旧国鉄がS型車内警報装置をもとに開発した初期型ATSで、1963(昭和38)年9月から1966(昭和41)年4月までに国鉄の在来線の大半(ATS-A形・ATS-B形設置路線以外の全ての路線)に設置された。機能的には問題が多かったが、旧国鉄は膨大な路線を抱えていたことから容易には改良出来ず、最後までATS-S形を使用し続けた。
JR各社は1990年代以降に改良型ATS(ATS-Sx型)への更新を進めたが、改良型ATSはATS-S形に停止現示(赤信号)直下停止機能などを付加するために設備を追加したものであり、全ての設備が置き換わった訳ではなく、基本的なシステムはATS-S形のものを引き継いでいる。

 

ATS-S形の機能

  • 停止現示に対する自動停止機能
    ATS-S形では、停止現示(赤信号)の信号機の約600m外方(手前)に設置されているATS地上子(ロング地上子)の上部を列車が通過する際に車上子が地上子からの電波信号を受信し、警報ベルを鳴動させる。このことにより、前方の信号機が停止現示(赤信号)であることを運転士に警告する。この際、運転士が5秒以内に確認ボタンを押さないと、非常ブレーキを動作させ列車を自動停止させる。但し、運転士が確認ボタンを押したあとは停止現示を冒進(赤信号無視)しても列車は自動停止しないため、その後の列車の保安は運転士任せとなる危険なシステムであった。
    ロング地上子だけでなく、のちに絶対信号機に直下地上子が追加されたが、これは警報ベルを鳴動させるのみで列車を自動停止させる機能はなかった。
 

ATS-S形の問題点

  • 確認ボタンを押したらそれまで
    警報ベルが鳴り確認ボタンを押すことにより、前方の信号機が赤信号であることを運転士が正しく認識し慎重に列車を運転する、という前提では安全なシステムである。一方、運転士が確認ボタンを押した後は何らの防護機能は無く、運転士が正しく操作を行なわないと事故を防ぐことが出来ない。
    実際には運転士は警報ベルに慣れてしまい、警報ベルが鳴った瞬間に反射的に確認ボタンを押し、その後ほかのことに気を取られているうちに停止現示を冒進(赤信号無視)し前方列車へ追突する等の事故を起こすケースが後を断たなかった。
  • 即時停止機能が無い
    ATS-S形は即時に警報ベルを鳴らす機能、および警報の5秒後に(運転士が確認ボタンを押さない場合のみ)列車を強制停止させる機能がある。しかし、即時に列車を強制停止させる機能は無い。
    このため、停止現示を冒進(赤信号無視)した際にも直ちに列車を強制停止させることが出来ず、警報ベルを鳴らすことしか出来ない。また分岐器で速度超過した際にも強制停止させることが出来ず、警報ベルを鳴らすのみである。
    これはATS-S形の大きな欠陥であったが、国鉄は最期までこの欠陥を放置し続けた。即時停止機能が付加されたのは、民営化後にJR各社が改良型ATS(ATS-Sx型)を導入して以後のことである。
  • 分岐器での速度照査機能が限定的
    ATS-S形は地上時素方式の分岐器速照機能を有していたが、列車の速度が60km/h以上では速度照査が出来ず、その機能は限定的なものであった。また警報機能のみで列車を強制的に停止させる機能を有さず、運転士が泥酔・居眠運転している際には効果が薄かった。
  • 曲線での速度照査機能が無い
    ATS-S形には曲線での速度照査機能が無く、尼崎事故現場のようなカーブで列車が速度を超過しても対処出来ない。原理的には分岐器速度警報装置と同様の装置を曲線部に設置することも可能であると思われるが、設置例は確認されていない。また列車の速度が60km/h以上では速度照査が出来ないため極めて限定的な運用しか出来ず、列車を強制的に停止させる機能も無い(警報のみ)。
 

ATS-S形はJRの路線に現存するか?

尼崎事故の際、ATS-SW形JR西日本で最も古いATSであると報道された。一方で事故半年後の2005年10月までは、ATS-S形車上装置しか搭載していない車輌がJR西日本の七尾線で営業運用に就いていた事例が確認されており、現在までに本当にATS-S形が全て更新されたのかは疑問が残る。

ATS-S形と七尾線

ATS等の運転保安装置には様々なタイプがあり、設置費用にも大きな差がある。ATSは線区の実情に於いて選択されるものであって、実情を考慮せずに収支が逼迫した地方線区に不釣合いな高度な設備を求めることは、線区の存続そのものを危うくする事態を招きかねない。
七尾線は2005年11月までに既にATS-SW形化が達成されており、ここで同線区のATSを問題視する訳ではないが、七尾線に於いてATS-S形が2005年10月まで運用されていた事実は、尼崎事故に係るJR西日本の開示情報の妥当性を検討するために必要であると考えられるため、あえて取り上げる次第である。
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七尾線・和倉温泉〜七尾間の共用区間の運用車両
画像著作権(4枚共) 【北陸の私鉄】
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左/のと鉄道NT100形【拡大】 : ATS-S形のみを搭載、2005年10月末までに運用を終了した。
中/のと鉄道NT200形【拡大】 : ATS-SW形を搭載 、2005年3月25日より運用を開始した。
右/JR西日本  683系【拡大】 : SW形P形を搭載、写真は しらさぎ3号(付属3両が和倉温泉行き)。

681_2000_hokuriku_01_mini.jpg左/北越急行 681系2000番台 ※【北陸の私鉄】様より直接提供
写真【拡大】は和倉温泉駅を発車する はくたか19号の付属3両編成。 はくたか運用編成は北越・JRの両所属車が共通運用されており、双方ともSW形及びJR東日本タイプのP形を搭載している模様である。
  • 七尾線の歴史
    七尾線は、国鉄時代には北陸本線の津幡駅から分岐して輪島駅に至る全線非電化の路線であった。1935(昭和10)年7月30日には全線が開通した。国鉄の解体に伴ない1987(昭和62)年4月1日に全線がJR西日本に承継されたが、1991(平成3年)年9月1日に和倉温泉駅以南が電化された際に、非電化区間全て(輪島〜穴水〜和倉温泉)が第三セクターのと鉄道へ移管された。ただし、同区間の路線はJR西日本が第三種鉄道事業者として保有し続けた。
    のと鉄道区間の輪島駅〜穴水駅間は2001(平成13年)年3月31日限りで廃止され、現在のと鉄道区間の穴水駅〜和倉温泉駅間、及びJR西日本区間の和倉温泉駅〜津幡駅間で運行を続けている。
  • 七尾線の名称と路線保有者
    運行事業者には変更があったが、輪島駅〜穴水駅〜和倉温泉駅〜津幡駅間の名称は一貫して七尾線であり、路線についても国鉄ないしJR西日本が一貫して保有し続けた。
    因みに能登線(蛸島〜穴水間)は、1988(昭和63)年3月25日にJR西日本から のと鉄道へ移管されて以降、2005(平成17)年3月31日限りで廃止されるまで一貫して のと鉄道が路線を保有し運行し続けた。
  • 七尾線の共用区間
    のと鉄道の開業以来、七尾線の和倉温泉駅〜七尾駅間はJR西日本と のと鉄道が共用区間として運行しているが、同区間はJR西日本が第一種鉄道事業者であることから、実質的には のと鉄道の列車がJR西日本の路線へ乗り入れる形となっている。
    同区間の一般輸送は全て のと鉄道の列車が行なっており、JR西日本の定期列車は全て「しらさぎ」や「はくたか」、「サンダーバード」などの特急列車である。
  • 七尾線共用区間のATS-S形
    和倉温泉駅〜七尾駅間に設置されているATSATS-SW形であると思われるが、同区間ではATS-S形のみを搭載する のと鉄道のNT100形が2005(平成17)年10月まで運行されていた。ATS-SW形は地上側と車上側の双方が対応していないとATS-SW形として動作せず、よって僅か一駅間ではあるが、『JR西日本で最も古いATSはATS-SW形である』とする報道に反し、特急も運行するJR西日本の自社路線で尼崎事故後も半年に亘ってATS-S形が運用されていたことになる。
  • 七尾線のと鉄道区間のATS-S形
    のと鉄道七尾線のATSは、2005(平成17)年3月24日までは全てATS-S形であった。2005(平成17)年3月25日にATS-SW形車上装置を搭載するNT200形が運用を開始し、同時に穴水駅〜和倉温泉駅間の地上側でもATS-SW形の運用が開始された。一方でATS-S形のみを搭載するNT100形も同年10月まで運行を続けた。11月より運行車両が全てNT200形となった。
    穴水駅〜和倉温泉駅間の路線保有事業者はJR西日本であり、厳密に言えばJR西日本の路線である穴水駅〜和倉温泉駅〜七尾駅間で尼崎事故後も半年に亘ってATS-S形が運用されていたことになる。
 
能登線・七尾線の歴史
路線名能登線七尾線
区間蛸島〜穴水輪島〜穴水穴水〜和倉温泉和倉温泉〜七尾七尾〜津幡
非電化区間
1987.03.31まで国鉄国鉄
1987.04.01からJR西日本JR西日本
1988.03.25からのと鉄道JR西日本
1991.09.01から非電化区間電化区間
のと鉄道のと鉄道共用区間JR西日本
路線保有/JR西日本
2001.04.01からのと鉄道路線廃止のと鉄道共用区間JR西日本
路線保有/JR西日本
2005.04.01から路線廃止のと鉄道共用区間JR西日本
路線保有/JR西日本
 
2005(平成17)年3月に於ける能登・七尾線の状況
路線名能登線七尾線
路線保有事業者のと鉄道JR西日本
区間蛸島〜穴水穴水〜和倉温泉和倉温泉〜七尾七尾〜津幡
路線形態のと鉄道共用区間JR西日本
事業区分のと鉄道第一種第二種第二種
JR西日本第三種第一種第一種
ATS地上設備保有事業者のと鉄道のと鉄道(?)JR西日本JR西日本
運行列車のと鉄道普通
JR西日本臨時(急行さよなら能登路号/3月26日および27日に運転)
特急(サンダーバードなど)
普通・快速
 
のと鉄道のATS/2005(平成17)年
蛸島〜穴水穴水〜和倉温泉和倉温泉〜七尾
地上設備2005.03.24までATS-S形ATS-S形JR共用区間
2005.03.25よりATS-S形ATS-SW形
2005.04.01より路線廃止ATS-SW形
車上装置2005.03.24までNT100形 : ATS-S形
2005.03.25よりキハ58系 : ATS-SW形/蛸島〜七尾(JR車両)
NT100形 : ATS-S形  /蛸島〜七尾
NT200形 : ATS-SW形/穴水(?)〜七尾
2005.04.01より路線廃止NT100形 : ATS-S形
NT200形 : ATS-SW形
2005.11月よりNT200形 : ATS-SW形
備考背景赤尼崎事故以降のATS-S形(車上装置)運用事例を示す。
キハ58系(JR)207系S18編成と同様、ATS-S形に対応していたと思われる。
NT200形蛸島〜穴水間の運行事例は未確認。
 
 

ATS-S形に対応していた207系

事故列車7両目のクハ206-1033の運転室 (画面クリックで拡大)
【出典:国土交通省 航空・鉄道事故調査委員会 経過報告 付図8
fuzu_08-0100.jpgfuzu_08-0103.jpg左は付図8の運転室の画像、その一部を拡大したものが右の画像である(事故後の撮影)。
ATS-S形と記入されたプレートが掲げられている。
  • 尼崎事故の当時に於いてS18編成(事故列車5両目〜7両目)のATS車上装置はATS-S形線区に対応出来るものであった。未確認ではあるが、Z16編成(事故列車1両目〜4両目)ATS-S形線区に対応可能であった思われる。
  • 経過報告の付図8の左上には事故後に撮影されたクハ206-1033(事故列車7両目)の運転室の写真が載っており、ここにはATS-S形と記入されたプレートが掲げられているが、これは当該車両がATS-S形線区に対応可能な機器を搭載していることを示している。
  • S18編成ATS-S形線区に対応可能な機器を搭載していたことから、事故当時にJR西日本の直流電化区間に於いてATS-S形を運用していた線区が存在した可能性がある。
 

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Last-modified: 2006-09-02 (土) (4735d)